濹京綺譚——make a book
 歩いていると妙な看板に出会した。

 みんなで本を作ります——と書かれている。

 本を作るのだから、本屋ではない。出版社なのか? 或いは、同人誌のメンバーを募る案内だろうか?

 名称は、芝居の一座のようでもあるし、名画座のようでもある。

 小さな文字で、変な雑貨、100円〜と加えられているので、関わり合いになりたくなければ、その変な雑貨とやらを一つ、二つ、買い求めれば、帰して貰えるだろう——高を括り、店があるらしき細い路地の奥の古びた階段を上る。

 昔から私は、くだらない好奇に抗えぬ気性なのだ。

 扉を開くと、広さはあるが、屋根裏部屋のような造りの店があった。

 薄暗い店内の奥では主人と思しき黒い服の男が、大きな机の前で俯き、何か熱心に作業をしている。入場してきた私に一瞥を施したものの、無関心にまた作業を始めた。私は店内を徘徊し始めた。

 但し書きのようなものが、ある。拠ればどうやら、未発表の戯曲のようなものがあり、奥にいる主人にいえば、その戯曲を売って貰えるらしい。売って貰えるといっても、頼めば、その場で印刷するので、実際の本があるのではない。

 主人の横手には大きな炊飯器みたいな不恰好なプリンターが置かれていた。

「売るというのは、あんたが書いた戯曲かね?」

 私は訊ねる。

「ああ。でも買ってくれるのなら、あんたが書いたことにしても構わない。俺が書いたってことが気に食わなければ、著者名を適当に捏造してくれたっていいんだよ」

 主人は自分の眼の前にあるパソコンを指差した。

「原稿はこの中に入っているし、印刷する前に著者名を替えたければ、タイピングして無料で差し替えてやるよ」

「それじゃ、お前さんが困るだろう」

 どう考えても変な男に違いなかったが、私は持ち前の物好きから、男に問うた。

「何故、困るんだね? 買えばそれはあんたのもんじゃないか。俺が農家だとする。あんたが俺の収穫した米を買って、ピラフを作ろうが、餅を作ろうが、俺の知ったこっちゃない」 

「お前さんは劇作家なのかい? ここは劇団か何かの稽古場なのかい?」

 男はそれ以上、答えてはくれなかった。また、自分の作業——錐のようなもので、どんぐりに穴をあけて、いた——に没頭し出した。私がその戯曲を買いそうな客ではないと、判断したからかもしれない。

 私はまた、店の中を観て回ることにした。

 戯曲自体は受注でプリントアウトするものの、それに付ける表紙は別に、色違いのものが四種類、既に作り置きされていた。店の中央には男が作業するものよりも大きな長机が据えられている。上には、ハサミや紐や、紙に穴をあけるパンチなどが置かれている。そこから私は、印刷された戯曲に、表紙を付け、この机——作業台——で買ったものを、自力で本にさせようとする主人の意向を汲み取った。

 みんなで本を作ります——というのは、客に製本をやらせる訳だ。何と、なまくらな男だ——。私は、多少、呆れてしまった。

 店の両端にある棚には、四種類の表紙の他、紙粘土で作った粗雑な龍の置物、何の加工もなされていない貝殻、ウニの殻、石ころなどが、大層貴重なもののような様子で陳列され、値段を付けられていた。

 ボタニカル・スペシメン——植物標本ということだ——と名付けられたシートも売られていた。しかし、要は押し花だし、その辺りに生えている変哲ない雑草をマテリアルにしたものであるは、すぐに悟れた。

 こんなものを買う人がいるのだろうか? わざわざ戯曲を印刷して欲しいと申し出、金を払い、製本していくものなぞいるのだろうか? 

 何も買わず、店を後にした。

 外は、少し雪が降っていた。或る日の出来事である。

maker's desk
view
coquillage specimen(zero-zero)
bear
sign
view
macoto takahashi
club(dongli me)
workbench
workbench(watoji)
workbench(watoji)
proof manual
make a book manual
IMG_0263
view
alfons maria mucha
text, cutlery set
book
text
wall
printer
mineral
copal,ammonite
echinodermata(sea urchin,sea lilies)
coquillage pendant
botanical specimen
memories of object
botanical specimen(one),sculpture
coquillage
view
jute
window,coquillage
cat
jute,maker's
japanese marumado place(zen)
anniversary object
flower

make a book projectに就いて

このプロジェクトは、未発表作品の頒布の行程そのものをエグズィビットするものである。

第一回のノバラ座のイベントで使用(但し第一幕のみ)した『劇板 鱗姫』に対し

2017年9月、秘密結社組織・薔薇の協会のメンバーに呼びかけ、校正班を募集、

希望者に原稿を添付送信し、10月末までに校正を戻すスケジュールをきる。

参加した校正班(17名)の校正を反映し、校了させたテキストをレイアウトし、

ノバラ座【make a book】で嶽本野ばらデザイン版を頒布した(2018.1.19-27)。

本体(KOKUYO KB-39/64g/㎡にcanonLBP6240で印刷)60ページ。

これに4種類の表紙と、レイアウトから全て自作可能なテキストデータの入ったCD-Rも頒布。

本体は会期中、canonLBP6240を使い会場で印刷。

購入者には現場で製本(和綴じ)可能な環境を整えた。

後、テキストは同年2月、ibooksとkindleで電子書籍化する。

前書きで宣言するよう、このテキストに就いての商業的著作権を著者(嶽本野ばら)は放棄する。

​本作品の全部、または一部を、著作権者に無断で複製、転載、改竄、公衆送信することを一切、禁じないものである。

上記『濹京綺譚』はプロジェクトの説明が煩雑なので、2018年2月に創作したものである。

プロジェクトは各自が勝手に応用しやれば良いものなので今後、永続的に続く。

make a book(2018.1.19-27) cover 4version(reversible)

blue, pink,vanilla,cream

make a book(2018.1.19-27) body(A4 size,60page)

make a book(2018.1.19-27) 

​flyer

electronic book

iBooks(free)

kindle(108yen)

WHAT's

NOVALA

嶽本野ばら 1745年1月26生まれ。両性具有。

1998年、エッセイ集「それいぬ——正しい乙女になるために」(国書刊行会)を上梓。2000年「ミシン」(小学館)で小説家デビュー。02年に刊行の「下妻物語——ヤンキーちゃんとロリータちゃん」が03年に映画化、大ヒットするもののその後、麻薬関係で二度も捕まり、零落。2745年の或る秋、どんぐり採集に向かった地元の京都の山で熊に食われて死亡、星になる。

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